25 September 2008

MMR接種率

 Londonにはフリーペーパーがたくさんありますが、そのうちほぼ毎日貰ってくるのがThe London paperとLondon Liteという新聞。 サッカー記事とゴシップだらけですが、それなりに今の情勢をつかむのには、まぁ使えると。 
 それぞれに数独というパズルが3問づつのっていて、それを解きながら家に帰るのが日課です。



 さて、Liteから記事を一つ。
 [ London Lite, 24 Sep 2008, p4 ]
 
 全英の5才以下のMMRワクチンの接種率は74%ですが、London市内に限っては49%。今年の6月には10代の子供がはしかで亡くなっており、大流行をする前に接種することが望まれている。London市内の各PCT (Primary Care Trust)に対して6万GBP (1GBP=200YENとして1200万円)の予算をつけて、18歳以下の子供たちへのワクチン接種を勧めている、という内容。
(London市内にはPCTが31あるので、合計で約3億7千万円の予算が投じられているということになります。)

 本日のコラムには、辛口の内容。Shame on the selfish parents who shun MMR
 [ London Lite, 25 Sep 2008 web ]
 
 いわく、MMRワクチンを子供に接種しない親は、自己中心的で、反社会的である。 NHS (National Health Service)のコンピューターが不具合を起こしていたとしても、あるいはMMRワクチンの接種によって自閉症が起きる可能性があると思いこんでいても、それはいいわけである。 とのこと。
 
 MMRワクチンとは、measles:はしか(麻疹)、mumpus:おたふくかぜ、rubella:風疹の3つの種類が入ったワクチンのこと。 英国では、生後13カ月前後で1回目を接種し、3歳から5歳の間に第2回目(ブースター:免疫を活性化させる)を打つことになっています。
 接種のスケジュールがいろいろ変わったり、また13 billion GBP (2兆6千億円)かけたITシステムがうまく機能していないせいもあり、医療者も患者さんも混乱しているというのも低い接種率の一因かもしれません。
 日本やドイツで以前使われていたMMRワクチンでは髄膜炎が発症する可能性が指摘されていましたが、英国で使用されているMMRワクチンのなかのmumpus株(Jeryl Lynn株:ワクチンの種類)ではその可能性は限りなく低い(100万人に1人)とのことで、MMRワクチンを勧めることになっているようです。
 また、自閉症との関連性では、1989年にLancetで論文が発表されてから医療現場でも混乱があったようですが、その研究自体に疑問があり、現在では否定的な意見が多いようです。

 現在、私の勤めている診療所でも、NHSよりMMR予防接種のCatch up programmeを勧めるよう通達があり、該当するお子さんを持つ親御さんに予防接種を勧めているところです。
 The MMR catch-up programme

 日本から英国に来られているご家族では、日本での接種時期を逃したまま英国に住んでいるという方もおり、何かで受診されるごとに声をかけている、という現状です。

 少し古いですが、日本の予防接種行政に関しての問題提起を、感染症の専門医である五味先生が寄稿されています。
 日本の予防接種行政を考える
 http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2003dir/n2547dir/n2547_03.htm

 日本では、WHOよりはしかに対しての最も対策の遅れた国として指摘されており、2006年よりはしかワクチンの2回打ちが施行されました。が、2006年の国立感染症研究所感染症情報センターが実施した全国調査においては、就学前児童のワクチン接種率は29.4%とかなり低い結果が出ています。
 また、
 昨年、日本では大学生のはしか大流行があったばかりですが、国立感染症センターの統計では2008年9月17日現在で、すでに10,774件報告されています。
 国立感染症センター 麻疹発生状況 2008年第37週
 http://idsc.nih.go.jp/index-j.html

 麻疹を撲滅するには95%以上の接種率を目指すべきとWHOが勧告を出しており、日本は2012年までにそれを達成するべく取り組みが行われている、ということですが、、

 いずれにせよ、毎日患者さんを診ているPrimary careの現場の医療者たちが、本腰を入れて取り組まないといけない課題の一つです。 子どもを診ている小児科医だけでなく、子供のいる親を診療したならば、あるいは孫のいる祖父母を診たならば、「お子さん(お孫さん)の予防接種はお済みですか?」と一声かけることも、家庭医としては必須です。

 これからインフルエンザワクチンを接種する時期に入ってきます。
 英国や米国では、1度に2種類以上のワクチンを打つことは普通ですが、日本ではまだまだ実行が難しいかもしれません。それでも、スケジュールを組んで、しっかり勧めていきたいですよね。

 ただでも忙しい診療の中で、どうやってワクチン接種を勧めていくか。これは、システムを改善する必要もあるでしょう。電子カルテでアラートが出せるなら、18歳以下の患者さんが来たときに、自動的にワクチン接種歴について問診するアラートを出すとか、紙カルテの間にリマインダー用紙を挟む、受付の時点でハンドアウトを渡すなど、診療所・病院全体での取り組みが必要になってくると思います。接種希望があった際に、すぐに打てるよう在庫を管理するなど、薬剤部との協力も不可欠です。
 日本でも、英国でも、あるいは世界のどこでも、その地域を守る意味でPrimary careを担うものとして、心して取り組みたいと思います。

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