30 March 2008

Cultural Exchange

 私のクラスには、実に多くの国からの学生が集まっています。

 パートタイムで受講するのはほとんどがUK nativeさんたち(多くは、NHSで実際にManagementに携わっている方々)に加えて、フルタイムの学生は皆International!
 全部の国籍を上げてみると
  •  India
  •  Japan (私です)
  •  Kuwait
  •  Nigeria
  •  Pakistan
  •  Saudi Arabia
  •  South Africa
  •  United Kingdom
 いったいここはどこなんだと思うほど、国際色豊かです。
 英語で会話しているそばで、アラビア語やウルドゥ語、ヒンディー語が飛び交います。
 
 こうしてみんなで勉強するまでは、Nigeria人にも、Pakistanの人にも出会ったことはありませんでしたし、KuwaitやSaudi Arabiaなんて、えらく遠い存在でした。
 それぞれの国の情報は、日本語に翻訳されたニュースでほんのちょっとかじるだけで、暮らし振りや経済状況、信念や宗教、文化や言語なんて全く理解していませんでした。

 それが、クラスでのディスカッションを通じて、あるいはランチやディナーを一緒にすることで、たくさんのことを学ぶことができました。それに、ぐっとそれぞれの国が近づきました。

 みんなそれぞれ違うんだ。

 実に当たり前で、今更言うほどのことでもないのですが、普段は(少なくとも日本にいるときは)意識しないと忘れてしまうことでした。違う、という程度がはるかに大きいのです。

 たとえば、時間や約束に対しての考え方、世の中のとらえ方、問題解決の指向、家族の在り方、宗教と自分の関係、将来に関する考え方、などなど、「ほー。。」と思わずつぶやいてしまいます。

 もちろん、一人の人の振る舞いを、その国のすべてに対してGeneraliseすることは難しいかもしれません。でも、その人を窓口にして、その先の世界を見ることの楽しさというのが、本当に大きくなりました。

 先日、BBCで世界の庭園という特集をやったそうで、その翌日、数人のクラスメートから
日本にすばらしい庭園があると言っていた。いったいあれはどの庭園なんだ?実に洗練されていて、実に奥深い庭園だった! 日本に行くことがあったら絶対に訪れたい!
 うーん。一言「日本の美しい庭園」といわれても。。
 横浜の三溪園も美しいし、京都にはそこらじゅう美しいものがあるし、、
 で、思いついて竜安寺の石庭をインターネットで検索して、ページを見せると、どんぴしゃり!

 石庭の石の並びについての解釈や設計上の工夫、そこでの雰囲気、そして、日本人にとっても格別の空間であることを説明しました。禅や仏教の成り立ち、美に関する考え方など、実に話が盛り上がりました。

 それそれに、たくさんの違いがあるし、違うものを受け入れることや自分や組織、国を変えることは本当に労力を伴うことだというのは、避けがたい事実。

 でも、美を愛でる感覚、質の向上、人への気配りや大切に思う心などは、一緒です。
 違いをたくさん指摘するよりも、違いから学んだり、違いを生む背景に眼をやったりして、手を取り合えるところは大いに取り合って行けたら、どんなにか素晴らしい世の中になるんじゃないかって、クラスメートと話をするたびに、そう思います。

 Healthcare Managementを学びに来ているけれども、おそらく、それと同じかそれ以上に、クラスメートからたくさんのものをもらっていると思います。

25 March 2008

Primary Care Trustsとは何ぞや?

 はうぅ。 ようやくEssayを提出しました。
 今回は、Management and Governance in Healthcare Organisation という単位の課題でした。
 
 お題。
"Corporate boards of healthcare organisations largely ignore the quality of care either delivered or commissioned by these organisations." Address this argument by critically reviewing healthcare organisations of your choice in respect to their practice of corporate and clinical governance. Your review must draw upon the evidence base.
 まず、質問で聞かれている意味を理解するのに、私の英語力ではかなりの時間を要しました。

 要するに、医療機関のトップマネジメントたちは、実際の運営面において医療の質をかなりないがしろにしているって言われているけど、それについて、医療機関を選んで、その実際の運営やクリニカルガバナンスに着目して「批判的に」論じなさい、みたいな感じ。

  他のお題は、非医療者の医療機関の運営に参加することに関して、規制と医療者の自発性やイノベーションとの関連について、一次・二次・三次医療機関の隔たりを増大している要因について、でした。規制についても興味があったのですが、法律も絡んできて、UKの法律と格闘するも、断念。法的な専門用語(もちろん英語)が多すぎて、わからなさ過ぎました。日本のだってわからんのにねぇ。

 で、結局は、National Health Service (NHS) のPrimary care serviceの中核をなすPrimary Care Trusts (PCTs)をとりあげて、そのcommissioningとQuality of careについて論じる(と信じたい)ことにしました。

 これまでのEssayでは極力UKの医療機関について論じるのは避けてきました。
 なぜかというと、NHSがあまりにもスケールが大きく、複雑で、しかもすぐにいろいろ変更されて、とてもじゃないけど把握できなかったから。 UK nativeのクラスメートですら、「おそらくNHS全部について分かっている人なんて、いないんじゃないの?」というくらい。
 これまでと同じく今回も、日本の医療機関を取り上げようかと思ったのだけれども、何しろ運営を裏付けるデータがない、論文がない、裏付ける証拠が足りなさすぎて、無理だと判断。 結局、PCTsについて膨大な資料を読み漁ることとなりました。

 NHSの変革と簡単な構造ついての説明は、日医総研のワーキングペーパーにわかりやすく書いてあるので参考にしてみてください。
 No.140 イギリスの医療制度(NHS)改革ーサッチャー政権からブレア政権および現在ー
 森 宏一郎 2007/02/27

 まず、英国の医療は、一部を除いてすべて公的機関(NHS)となり、財源は一般財源から賄われます。
 NHSは4つ(England, Wales, Scotland, Northern Ireland)に分かれ、予算は政府から分けられて配分されますが、それぞれ組織構造も運営形態も政策も独自の方法がとられています。
 政府(日本でいうところの厚生労働省は、Department of Health (DOH)というところにあたる)からの医療政策の方針は変わりませんし、毎年の重点課題となるターゲットも同じですが、それをどう地域に反映させるかというのは、極端な話、4つともまるで違うということがあるのです。
 1998年にUKで新しい医療政策が発表されて、Primary careを中心に据えた新しいNHSへの改革が始まりました。  この新しい改革の中でClinical Governanceというコンセプトも発表され、NHSの職員はすべからく質の向上に向けて努力することが求められるようになりました。

 おもに、NHSについての話となると、一番大きなEngland NHSを指していることが多いですが、注意しないとWalesのことだったり、別のNHSでは当てはまらないことも出てきます。
 (私のBlogでは、注釈がない限りNHS in Englandでのお話となります。)

 で、NHS Englandの中に、地域ごとにNHS Trustというものに分けられて、Primary Care部門の医療とサービスを一手に引き受けているのがPCTsということになります。他にも、Mental health, Acute care, などのTrustsがあり、それぞれ独自に地域に対するサービスを提供すべく方針を立て運営されています。

 PCTsの守備範囲(?)としては、GPによる診療、薬局、Public Health、患者教育など、実に多岐にわたっており、地域に必要と思われるサービスを特定し、そのサービスを提供している施設・機関と個別に契約を結び、その成果をモニターするということが求められています。

 また、PCTsがClinical Governanceに基づいて、きちんと仕事をしているかということをチェックするために、多くの機関が作られました。
  1.  NICE (National Institute for Health and Clinical Excellence) (医療行為と医療器材についてのガイドラインを発行する)
  2.  Healthcare Commission (England のNHSの質についてAuditを行う)
  3.  NHS Clinical Governance Support Team (Clinical Governanceを現場に反映できるように援助する)
 他にも関連機関がありますが、ここでは割愛。臨床の質、経営の質というものを、患者の視点、経営の視点、運営の視点からチェックし、それを広く市民にも公開しています。
 毎年、各NHS Trusts、PCTsに対して、resourceの利用状況や経営状況、医療の質が国の定めたIndicatorに基づいて測定され、批判的な内容も含めて発表されています。

 英国は、本当にシステムを作るのがうまいなぁと思います。
 ただ問題は、これだけ綿密にシステムが組まれていても、現場にはまだまだ問題が山積しているということ。 質の改善のために、さまざまなツール(Total Quality Management, Sig Sigma, Leanなど)が導入されていますが、多くは「改善できませんでした」というレポートが多いのが実情です。

 どの国でも、どの地域でも、変化を起こすということは、時間のかかる作業のようです。
 
 (関係ないですが、NICEのManchester officeって、City Centreのど真ん中にある。いつも行きかっていましたが、全く気付きませんでした、、)

12 March 2008

ダブルブッキング

 授業も終盤に差し掛かってきて、授業内容にも、教授たちのサポート体制にも、図書館のサービスやキャリアサービスにも、大いに満足している。

 昨日の土砂降りじゃぁないけど、本当に「知識の土砂降り状態」とでも表現したらいいのか、新しい知識や考え方で「ずぶぬれ」になるくらい、というより、どっぶりつかっている状態。

 とても泳げるようになるには大分時間がかかりそうだし、窒息しないように息継ぎするのが精いっぱいだけど、でも、かなり満足している。(脳みそが「痛む」様に感じるくらい大変だけど。)

 それに、英国の時の流れ、時間の感覚にもだいぶ慣れてきた。
 えーえー、長い行列でも黙って並びますし、バスが来なくても電車がキャンセルになっても気にしませんし、1時間の時間のずれっていうのはズレに入らないんだって感じのことも、分かっております。

 でも、今日は久々にブチ切れました。
 あぁ、ずっとブチ切れないようにしてきたのになぁ。

 昨日の授業は、レクチャーの途中で部屋のダブルブッキングがわかり、結局30分も授業が中断。
 以前は、部屋を追い出されて、途方に暮れることもありました。

 通常、授業計画が発表されると、Department administrator が部屋を予約してくれます。
 授業がなくても、みんなで集まって何か議論したいときなどにも、部屋を借りることができます。 
 ダブルブッキングになるってことは、つまりは、Administrator もしくは、Booking office が手違いを起こしているわけです。

 昨日は、どうにか折り合いがついたらしく、継続して部屋を使うことができました。

 やれやれと思って、今日また学校に行ってみると、部屋の前でクラスメートがたむろしている。

 まーさーかー。。。
 そうです、ダブルブッキング、アゲイン。

 「まったく信じらんない!またですか?」という私に、クラスメートは、

まぁまぁ。 怒ったところで部屋が空くわけでもないし。。。
その通りだけどさー、昨日ダブルブッキングだったんだからさ、今日は大丈夫かなって昨日のうちにチェックするってことをしないわけ?あのね、日本にはね、二度あることは三度ある、っていう諺があるのよ。

ちょうどいいじゃん!コーヒー飲みに行こうよ!
 みんなに責任があるわけじゃないしさー。行こ、行こ!

あっちの部屋がサー、あいてるから使っちゃえばー。

少なくとも「Business School」って名前を使ってるくらいなんだからさ、もうちょっとどうにかなんないのかなぁ。

そんなに怒ると、血圧あがっちゃうよ? え、高血圧じゃない?そっかー、あははは。

えー、日本だとこういうことって、起きないの?

あのですね、日本だと起きないかどうかというよりも、問題があるってわかったら、それをどうにかしましょうっていうのをQuality Improvementで習ったでしょ? でしょ? その積み重ねなわけですよ!


 まぁ、こんな会話が続くわけです。 これ、ほんとの話です。
 慰めてくれるクラスメートにありがたいと思ったり、「これって、普通じゃん?」っていう意見に脱力してみたり、、、
 
 結局またまた30分以上授業が遅れ、おかげで授業は押せ押せで進む。

 こんなことで怒ったってしょうがないし、文句を言ったところで
「それは、こちらの部署じゃ分りかねます」
って答えが返ってくるのも、百も承知している。

 でもですね、どうにかならんもんかと思うわけです。

 待たせる、ということに関して、ひっじょーーーに無関心だなぁと、思うわけです。
 日本の山手線みたいに、30秒かそこら出発が遅れただけで「お待たせして申し訳ございません」なんて言ってくれなくっていいんです。そこまでは望みません。っていうか、英国では可能性として、かなり高い確率で、無理です。
 
 ただ、もう少しどうにかならんかなぁと思うわけです。

 おそらく、こうした小さなエラー、ちょっとの時間のロスが、NHSにおける膨大なWaiting listにつながるんだろうし、Royal Mailの窓口の4重位に連なる長い行列になったり、銀行のキャッシュカード発行に4週間かかったりすることにつながるだと思うわけです。

 明らかにサービスの低下だと思うのです。
 アウトカムとして「優秀な生徒を世の中に送り出す」ということに対して、そんなに影響はないでしょう、おそらく。ただ、満足度を大いにあげる可能性があると思うわけです。

 この意見にも「別に、大学は学生の満足度って、気にしてるのかなぁ?」なんて答えがクラスメートから帰ってきて、またまた脱力なんですが、、

 「どうにかならんもんだろうか?」って思わないのか、そのあたり、本気でResearchしてみたくなります。

 Toyota方式だの、Six Sigmaだの、Total Quality Management だの、学ぶのはいいんですが、そのImplementationについて、どう考えているんだか。
 NHSでのQuality Improvementに関する質的研究の論文を読んでみても、どうしてNHSでうまくいかないのかっていう分析の論点が、どうにもずれているような気がしてなりません。 そこも問題かもしれないけど、それよりも、時間に対する感覚をどうにかしないとだめだろう、って思ったりするわけです。

 日本人が特別に「いらち:短期でイライラしやすい人たち」なわけじゃぁないと思うんですけどね。違うんでしょうか、世界標準だと。

 時間に対する感覚だけじゃなくて、非常に細かいところに気を使う、気を配る、心を砕く、というのが、どんなにか素晴らしい付加価値を生み出しているか、iPodの金属加工を見るだけでも、唸るくらいです。

 そのあたりが理解できない、体得できない、実行に移せなければ、Leanだったり、Toyota方式だったりっていう質改善の方略は、日本以外の組織においては、本来生み出されるであろうOutcomeを導き出せないような気がします。

 やっぱり、この辺をDissertationでやりたいんだけどなー。 難しいのは分かるんだけどなー。 せっかくの「怒り」のエネルギーをどうにか消火、いやいや昇華させたいものです。

11 March 2008

どしゃぶり

 いやぁ、参りました。。

 今日はResearch Methodsのクラスがあって、帰ろうと思ったら、ガラスの天井が割れんばかりの大雨。
 大学の出口は、人だかり。
 外に出ようにも、文字通り「横殴り」の雨と風。

 立て看板は飛ぶわ、ゴミ箱は宙を舞ってるわ、人はコケてるわ、いやはや、すごい嵐です。

 Manchesterの付近は(というより英国には)高い山という、雨雲や風を遮るものがありませんから、ちょうどシャワーを全開にした感じの勢いのある雨が降っているわけです。降っている、というか、ぶつけられているって感じ。

 ドアの前で待ちながら、周りの人とのおしゃべりになりました。
ちょうどさー、昨日母さんに「英国でも青い空が見えるんだよねー。そんなにブルーにならないから大丈夫だよー」なんて話したとこだったんだけどさぁ。 オレが間違ってたな。

こういう天気だからさ、天気予報なんて当てにならないんだってば。こういう時に限って、傘を持ってきてないんだよなぁ。

天気なんて、神様の思うところなんだから、そもそもそれを当てようなんて方が、間違ってる!祈るしかないのよ!

。。。。。。 そんなことよりさー、どうやって帰る?

 なんて話をしながら待っていると、10分かそこらでいきなり青空が見えてきました。
 みんな、脱兎の如くバス停へ走って行って、バスに乗り込んでおりました。 
 でも、2階建てバスは満員状態。

 さぁて、そろそろ私のバスが来るかなーなんて思っていたら、西の方からどんよりした雲がものすごい勢いでこちらに向かってきていて、その雲の下は灰色に霞んでいます。。

 やーばーいー。 また嵐が来るー。

 ものの数分後、大粒の雨とともに猛烈な風が吹き始めました。
 風に吹かれて、足元がすくわれるなんて体験、初めてかも。

 やーばーいー。 図書館の本とPCがダメになるー。

 とっさに振り向くと、スーパーのお兄さんが扉を開けて「こっちこっち!」と手招きしてくれています!
 さぁんきゅぅー!!! 遠慮なく、雨宿りさせていただきました。

 そしてまた10分かそこらで、ぱたっと雨と風がやんで、青空。
 いったいどういう天気なんだ?

 いずれにしても、雲はものすごいスピードで流れて行っていたので、また嵐がすぐにくるでしょう。
 
 今日は夜中もずっと、外は嵐でした。



03 March 2008

外のことと目の前のこと

 白衣に腕を通す時にはいつも、自分の中の何かが切り替わるような気がする。
 聴診器を手にとって、病室や診察室に向かうとき、自分が「しゃんとする」のがわかる。

 外来での診察は、たいていは10分程度。
 いつも診ている患者さんでなければ、多くの場合、その人のいつも生きている社会背景にまで話が及ぶことは、なかなか難しい。
 熱が出たから、咳が続くからと、よくある体の不調を訴えて訪れる患者さんの、その後ろにある本当に聞きたいこと、心配なことに、どこまで耳を傾けられるか。どこまで思いを巡らせることができるか。
 
 目の前にいるこの人に、自分は何ができるのか。
 
 北海道の東部では、非常に医師が不足し、大きな病院での内科病棟・診療の縮小が発表された。
 お世話になっている病院も、慢性的に医師が不足し、常勤医師たちやスタッフは疲弊する中でも、精一杯やっているのが分かる。
 そんな中で、厚生労働省は、勤務医の負担軽減のために、新たな政策を発表した。

 本当にそれで解決するんだろうか。
 本当にこの医療の流れで、現場で働く医療スタッフたちが、日々やりがいを感じながら仕事をする環境が作れるのだろうか。
 本当にその政策で、この目の前の患者さんが安心できるような、医療共有体制が組めるのだろうか。

 今、目の前にいる、この人に思いを巡らせること。
 世の中で起きていることに、注意を向けること。

 どちらもできなくなるくらい、疲弊するときがある。

 日常の診療で、あまりの忙しさになりふり構わず取り組んでいると、一人ひとりのことにまで目を向けていられなくなることもある。 目を向けると、その分、当然ながら取り組むべきこと、悩むことが増えてくるから、「これ以上は無理です」というところまで、仕事が増えてしまう。 
 目の前の人のことを思えば思うほど、体もこたえるが、それよりももっと、心が疲弊してしまう。

 さらに言うなら、目の前のことに精いっぱいで、とてもじゃないが国の政策だの、世界情勢だの、環境問題だのなんてことは、だいぶ後回しになる。

 こんなんで、いいんだろうか。 
 これじゃぁ、働く医療者にとっても、そこを訪れる患者さんにだって、いいわけはない。

 日本の医療は、世界一の寿命と乳児死亡率を誇り、低コストで、比較的少ない医療従事者で、24時間365日の診療をカバーしている。 医療へのアクセスも、おそらく世界一いい状態だろうと思う。
 それでも、国の行った調査では、国民の医療への満足度が50%程度である。
 医療に関連する訴訟の数も、年々増えている。

 低コストで、質が高く、アクセスも自由で、安全性の高い医療制度、なんていう、夢みたいな制度は、世界のどこを探しても、ない。 でも、かなりそれに近いものを、日本の医療は提供できている気がする。
 ただ、その後ろに、専門職としての時間給はかなり安く、平均寿命を縮めてまでも働いている医療従事者がいるということが、問題として取り上げられることは、ほとんどない。

 「出来ていること」は当然のものとして扱われ、「出来ていなこと」「出来なかったこと」に注目し、大問題として取り上げられる。 なぜそうなったのか、どうすれば改善できるのかというところに着目するのではなく、起きてしまった事実ばかりが注目を集め、当事者たちが責められてしまう。
 
 「出来ていること」を声高に宣伝することは、なんとなく引け目を感じるような、みっともないことのような、そんな雰囲気がある。 能ある鷹は爪を隠す、みたいに、「こんなにできるんです!」って言う事は、良しとしないようなそんな雰囲気があるからだろうか、日本の医療のスゴさっていうのを発表している論文は、それほど多いとは思えない。

 外の世界で起きている事を、自分の目の前のことを関連付けて考えて、改善のために用いること。
 逆に、目の前で起きている事を、外の世界で起きていることと結びつけて一般化すること。

 この両方を行き来できるような、両方を関連付けられるような、そんな仕事がしたいと思う。
 日本ではみっともないことかもしれないけれど、世界に対して「日本はこんな業績を残している」ということを発表できるような、そんな仕事をしてみたいと思う。
 
 そうすることで、少しでも恩返しになったらと、頑張る人たちへの応援になったらと、そう思う。