25 March 2008

Primary Care Trustsとは何ぞや?

 はうぅ。 ようやくEssayを提出しました。
 今回は、Management and Governance in Healthcare Organisation という単位の課題でした。
 
 お題。
"Corporate boards of healthcare organisations largely ignore the quality of care either delivered or commissioned by these organisations." Address this argument by critically reviewing healthcare organisations of your choice in respect to their practice of corporate and clinical governance. Your review must draw upon the evidence base.
 まず、質問で聞かれている意味を理解するのに、私の英語力ではかなりの時間を要しました。

 要するに、医療機関のトップマネジメントたちは、実際の運営面において医療の質をかなりないがしろにしているって言われているけど、それについて、医療機関を選んで、その実際の運営やクリニカルガバナンスに着目して「批判的に」論じなさい、みたいな感じ。

  他のお題は、非医療者の医療機関の運営に参加することに関して、規制と医療者の自発性やイノベーションとの関連について、一次・二次・三次医療機関の隔たりを増大している要因について、でした。規制についても興味があったのですが、法律も絡んできて、UKの法律と格闘するも、断念。法的な専門用語(もちろん英語)が多すぎて、わからなさ過ぎました。日本のだってわからんのにねぇ。

 で、結局は、National Health Service (NHS) のPrimary care serviceの中核をなすPrimary Care Trusts (PCTs)をとりあげて、そのcommissioningとQuality of careについて論じる(と信じたい)ことにしました。

 これまでのEssayでは極力UKの医療機関について論じるのは避けてきました。
 なぜかというと、NHSがあまりにもスケールが大きく、複雑で、しかもすぐにいろいろ変更されて、とてもじゃないけど把握できなかったから。 UK nativeのクラスメートですら、「おそらくNHS全部について分かっている人なんて、いないんじゃないの?」というくらい。
 これまでと同じく今回も、日本の医療機関を取り上げようかと思ったのだけれども、何しろ運営を裏付けるデータがない、論文がない、裏付ける証拠が足りなさすぎて、無理だと判断。 結局、PCTsについて膨大な資料を読み漁ることとなりました。

 NHSの変革と簡単な構造ついての説明は、日医総研のワーキングペーパーにわかりやすく書いてあるので参考にしてみてください。
 No.140 イギリスの医療制度(NHS)改革ーサッチャー政権からブレア政権および現在ー
 森 宏一郎 2007/02/27

 まず、英国の医療は、一部を除いてすべて公的機関(NHS)となり、財源は一般財源から賄われます。
 NHSは4つ(England, Wales, Scotland, Northern Ireland)に分かれ、予算は政府から分けられて配分されますが、それぞれ組織構造も運営形態も政策も独自の方法がとられています。
 政府(日本でいうところの厚生労働省は、Department of Health (DOH)というところにあたる)からの医療政策の方針は変わりませんし、毎年の重点課題となるターゲットも同じですが、それをどう地域に反映させるかというのは、極端な話、4つともまるで違うということがあるのです。
 1998年にUKで新しい医療政策が発表されて、Primary careを中心に据えた新しいNHSへの改革が始まりました。  この新しい改革の中でClinical Governanceというコンセプトも発表され、NHSの職員はすべからく質の向上に向けて努力することが求められるようになりました。

 おもに、NHSについての話となると、一番大きなEngland NHSを指していることが多いですが、注意しないとWalesのことだったり、別のNHSでは当てはまらないことも出てきます。
 (私のBlogでは、注釈がない限りNHS in Englandでのお話となります。)

 で、NHS Englandの中に、地域ごとにNHS Trustというものに分けられて、Primary Care部門の医療とサービスを一手に引き受けているのがPCTsということになります。他にも、Mental health, Acute care, などのTrustsがあり、それぞれ独自に地域に対するサービスを提供すべく方針を立て運営されています。

 PCTsの守備範囲(?)としては、GPによる診療、薬局、Public Health、患者教育など、実に多岐にわたっており、地域に必要と思われるサービスを特定し、そのサービスを提供している施設・機関と個別に契約を結び、その成果をモニターするということが求められています。

 また、PCTsがClinical Governanceに基づいて、きちんと仕事をしているかということをチェックするために、多くの機関が作られました。
  1.  NICE (National Institute for Health and Clinical Excellence) (医療行為と医療器材についてのガイドラインを発行する)
  2.  Healthcare Commission (England のNHSの質についてAuditを行う)
  3.  NHS Clinical Governance Support Team (Clinical Governanceを現場に反映できるように援助する)
 他にも関連機関がありますが、ここでは割愛。臨床の質、経営の質というものを、患者の視点、経営の視点、運営の視点からチェックし、それを広く市民にも公開しています。
 毎年、各NHS Trusts、PCTsに対して、resourceの利用状況や経営状況、医療の質が国の定めたIndicatorに基づいて測定され、批判的な内容も含めて発表されています。

 英国は、本当にシステムを作るのがうまいなぁと思います。
 ただ問題は、これだけ綿密にシステムが組まれていても、現場にはまだまだ問題が山積しているということ。 質の改善のために、さまざまなツール(Total Quality Management, Sig Sigma, Leanなど)が導入されていますが、多くは「改善できませんでした」というレポートが多いのが実情です。

 どの国でも、どの地域でも、変化を起こすということは、時間のかかる作業のようです。
 
 (関係ないですが、NICEのManchester officeって、City Centreのど真ん中にある。いつも行きかっていましたが、全く気付きませんでした、、)

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