23 January 2008

62年間のCohort Study

 Researchの世界には、とんでもないものがあるんだということを、知りました。

 今日は、University of Londonの一つである、UCL(University College London)のDepartment of Epidemiology and Public Healthが主催していた説明会に参加してきました。

 UCLはResearchでトップクラスと評価されているところで、このDepartmentのHeadであるProfessor Sir Michael Marmotは、Social Epidemiologyの第一人者です。 Social Epidemiologyというのは、社会的な要因(貧困、教育レベル、人種、社会的地位など)が健康にどのように影響するかについて研究している学問です。
 
 私が初期研修を受けた病院は、労働者階級の人たちも多く、比較的貧困世帯の多いところで、診療を受けに来る患者さんの約3割が生活保護世帯という、結構特殊な病院でした。 アルコール依存症と急性膵炎、C型肝炎、うつ病、思春期の妊娠と中絶、糖尿病、末期になってからの悪性腫瘍の発見などは、かなり多い印象を受けていました。 また、高度経済成長期からの公害による気管支喘息、肺気腫も何しろ多かった。 酸素ボンベを引っ張って受診して来る患者さんの、なんと多かったことか。

 そんな中で医者としての第一歩を踏み出して、違う病院でトレーニングを受けるようになって、驚いたのが、地域による病気の頻度の違い。 これほどまでに違うものかと、愕然としたのを覚えています。 社会的要因というのは、こんなにも健康に影響するものなのかと、実体験として感じていました。

 そんなこんなで、Public Healthの中でも、Social Epidemiologyに特に興味があったので、本場ではどんなもんかと、「気軽な気持ちで」説明会に参加してきたのでした。

 またまた、頭を「がちーん」とやられた感じ Oh! (*o*)""

 Departmentで現在進行中のResearchについて、実際にHeadとなっている教授陣たちのプレゼンを聞いたり、Ph.D. コースの学生さんたちのPoster Presentationを聞いていて、いやはや、なんとまぁレベルの高いこと!! それこそNEJMやLancetなんかの論文を書いているような人たちというのは、こういう人たちなんですね。。 

 その中で、とにかく一番驚いたのは、1946年(!!)から行われているCohort studyについて。
 62年間ですよ。 62年。
 1946年っつったら、日本はまだ焼け野原状態。 
 そんな中で、英国ではなんとも壮大なResearchがスタートしていたのでした。

 Medical Research Council (MRC)がメインとなって行われている、
 MRC Unit for Lifelong Health and Ageing & MRC National Survey of Health and Development
 というStudyです。
 http://www.nshd.mrc.ac.uk/

 2005年に論文で発表されています。

 Wadsworth, M., Kuh, D., Richards, M. and Hardy, R.(2005). 'Cohort Profile: The 1946 National Birth Cohort (MRC National Survey of Health and Development)'.International Journal of Epidemiology, 35(1):49-54
 http://ije.oxfordjournals.org/cgi/content/full/35/1/49

 1946年に生まれた人たちを、その後、ずーっと追っかけているのです。
 いやー、信じられない!

 なんだか、もう、そういうResearchがあるっていうことを知っただけで、めまいがしたというか、鳥肌が立って、体の奥からグアァーっと「知りたいー!!!」っていう気分。 (いやはや、日本語のボキャブラリーもいまいちですね。。)

 この膨大なデータをあらゆる角度から分析したものが、これからもたくさん論文になると言っていました。

 このほかに、もうひとつ、これまた大規模研究であるWhitehall II studyというのも、このDepartmentで行われています。
 http://www.ucl.ac.uk/whitehallII/

 今日の説明会の最後は、このStudyで実際にデータを集めるClinicを訪問し、Participants のデータを誰がどんな手順で集めているのかというのを、実際に見せてもらいました。
 トレーニングを受けた看護師や技術者の人たちが、プロトコールにのっとってデータを集めていき、なぜそのデータが必要なのか、そのデータの持つ意味について、話を聞きました。

 目の前にある、一つ一つのデータ(たとえば心電図データとか、握力の測定値とか)と、それが分析されて出されている結果を両方同時に見ることができて、本当に言葉にできないくらい圧倒されました。
 
 最後に、Professor Sir Michael Marmotがおっしゃっていた言葉が、とても力強くて、印象に残りました。 曰く、

 「私が医者になったとき、ある先輩からこう言われたのだ。 『医学書を読んだからと言って、いったい病気の何がわかるというのだ? ’なぜその病気が起こるのか’ について、僕たち医者は何もわかっちゃいないじゃないか。』 そう言われて、私は愕然とした。 そして、それを明らかにしたいと思ったのだ。」

 「私たちの使命は、真実とは何かという絶えることのない好奇心で、質の高い研究を行うことだ。 そして、その研究を通じて、英国の医療政策(Health policy)と、世界の医療政策に対してEvidenceを提供することだ。」

 もう、本当に、今日は(今日も)、感動と驚きと幸せな気分で、胸がいっぱいです。
 

15 January 2008

Appreciative Inquiry - Organisational Development

 今日は今年初めての授業でした。 明日にAssignment の提出日を控えているせいか、いつもの2/3くらいしか出席していませんでした。

 今日のお題は、Personal and Organisational Development - Appreciative Inquiry as a tool of Organisational Development。

 Organisational Development (OD)は、私にとってとても心奪われるトピックであり、このコースを選んだのもODに関するレクチャーがたくさんあるからでした。
 「変化」が唯一変わらないものである という言葉はよく聞かれることですが、この「変化」についてきちんと学びたいという欲求を、かなり良く満たしてくれる分野だなぁと思います。

 授業の目的は、3つ。
  1. To understand what is meant by Organisational Development.
  2. To explore the concept of Appreciative Inquiry.
  3. To practise an AI conversation based on individual experience.

 ODについての定義としては、Peck (2005)が書籍の中でBennis (1969)を引用しています。
… a response to change, a complex educational strategy intended to change the beliefs, attitudes, values and structure of organisations so that they can better adapt to new technologies, markets, and and challenges, and the dizzying rate of change itself.

 また、Peck(2005)はCarnevale(2003)の言葉を引用しています。
...a social technology that helps human systems remain competitive in an era where organisational operating domains are turbulent and all labour systems are wide open to the forces of change. Development means change and it requires learning.

 この最後の、Development means change and it requires learning. 
 んー、いいなぁ。 またひとつ、好きな言葉が増えました。

 この組織開発(OD)を実践に移す上での考え方に、OD cycleというのがあり、Donaldson (2005)は、7つの項目から成るCycleを提唱しています。
  1. Contract and Entry
  2. Data Collection
  3. Data Analysis
  4. Feedback on Data
  5. Negotiating Interventions
  6. Implementing Interventions
  7. Evaluation of Action
 Managerとして、あるいはOD推進者として組織に配属されたときに、まずしなくちゃならないこと。 それは、「その組織を知ること」。 当り前だろうと思われがちですが、実は、かなり多くのLeader & Managerたちが、「何をいつどうすればいいのか知っているのは、私だ。 だから、私の言う通りにすればいいんだ」という、姿勢をとってしまいがちであり、結局何もOutcomeを出せなかった、、なんていうことは、枚挙にいとまがない。 
 そして、4のFeedbackと5のNegotiationが、これまた欠けることが多いんだとか。結果に基づいて、何をしたらいいかが(Top managementなどには)はっきりしているため、現場で働く人たちの意見やほかのStakeholderとの「すり合わせ」なく、がつーんとImplementしちゃうという失敗も、多いそうな。
 実践に移す時には、これはあくまでも理論であり、すべての7つのステップを踏む必要はないけれども、大きく欠けてしまうといい「変化」がなかなか起きないようです。

 (なんだか、一昔前の「医師ー患者関係」みたいですね。 この失敗例は。)

 ODとは、組織が学びによって変化するということであり、それは、組織に属する個々人の振り返りに基づく学習を促すことで生み出されるもの、ということなんですね。

 ですので、OD cycleと、Kolb's learning cycle がそっくり、ということもうなづけます。
  1. Concreate experience
  2. Observation and Reflection
  3. Forming abstract concept
  4. Testing in new situation

 次の目的、Appreciative Inquiry(AI)とは何か? 初めて聞きました。
 喜びの問いかけ? んー? 

 このAIは、米国のDavid Cooperrider博士が、1980年に自身のPh.D.の論文の中で編み出した考え方で、1986年に書籍として出版されました。
Appreciative Inquiry : Towards a Methodology for Understanding and Enhancing Organisational Innovation.

 定義としてCooperrider博士は以下のように記しています(2005)
the cooperative, coevolutionary search for the best in people, theirorganisations, and the world around them
AI assumes that every organisation and community has many untapped and rich accounts of the positive - what people talk about as past present and future capacities, or the positive core.
 これもCycleになっていて、中心にAffirmative topicがセットされます。
  1. Discovery: Appreciate "the best of what is"
  2. Dream: Imagine "what could be"
  3. Design: Determine "what should be"
  4. Destiny: Create "what will be"
 ODとAIの違いとしては、ODが「何が(どこが)まずいか」からスタートするのに対して、AIは「何が(どこが)素晴らしいか」というところからスタートします。 どちらも、「改善、発展させる」ということに変わりはないのですが、ODがどちらかというとNegativeからスタートするのに対し、AIはPositiveから入っていきます。
 AIをうまく運用するには、Empowermentが大前提であり、批判のない安全な場(学習でいうところの安全な学びの場のようなもの)、Win-Win situationに持っていくという、LeadershipやCoachingのテクニックが必要とされます。 もちろん、トレーニングが必要ということ。

 組織変革をする上での考え方で、かなりの大きなParadigm shiftを要求されますが、実際にNokiaやHewlett-Packard、British AirwaysなどでAIを用いて大きな成果を上げているといわれています。

 おおぉ! まさに!
Reality can destroy the dream; why shouldn't the dream destroy reality? --George (Augustus) Moore (1852-1933)


 今日も、目から鱗が「バリバリ」落ちました。 
 いやぁ、新しいことを知るって言うのは、楽しい!

 これって、組織を相手にしたカウンセリングみたいなもんだなって。
 カウンセリングの手法の一つに、「今の自分を丸ごと受け入れて、とりあえずOKを出して、そこからスタートする」というのがあります。「あれがダメだ、これができない」と自己価値観の下がってしまった人に、ダメなところがあっても、できなことがあっても、そんな自分でいいんですよって、まずは自分自身を受け止める。受け止める上での、条件(あれができたらOKなど)は、一切なし。受け止めて認めた上で、さらにもっと自分を好きになるためには、こんな障害があるから、じゃぁ、それをどうやったら乗り越えられるだろう?って考えていく方法です。

 あるいは、「いい子供の育て方」みたいな感じ?
 スウェーデンの中学校の教科書 「あなた自身の社会」というほんの中の詩の一部とそっくり。

-- 引用開始 --
 【子ども】  ドロシー・ロー・ノルト

批判ばかりされた 子どもは
非難することを おぼえる

殴られて大きくなった 子どもは
力にたよることを おぼえる

笑いものにされた 子どもは
ものを言わずにいることを おぼえる

皮肉にさらされた 子どもは
鈍い良心の もちぬしとなる

しかし、激励をうけた 子どもは
自信を おぼえる

寛容にであった 子どもは
忍耐を おぼえる

賞賛を受けた 子どもは
評価することを おぼえる

フェアプレーを経験した 子どもは
公正を おぼえる

友情を知る 子どもは
親切を おぼえる

安心を経験した 子どもは
信頼を おぼえる

可愛がられ 抱きしめられた 子どもは
世界中の愛情を 感じとることを おぼえる
-- 引用終了 --

 クラスでのディスカッションはとても面白かった。

 特にクリスチャニティの強いところでは、「人間には原罪がある(アダムとイブが楽園を追放された)」つまり、もともとダメなところからスタートしている。だから、とっても自己価値観が低いんじゃないか。だから、こういうSelf-confidenceとMotivationを上げていく方法が、重要になってくるんじゃないか。

 とか、

 アフリカではAIは広がりにくいよ。だって、自分たちは「結構イケてるんじゃん?」ってなったら、そこに満足して十分Happyだから、先に進まなくなっちゃうもん。それじゃぁ、何も変わらない。

 あるいは、

 自分の部下が、Logicを好む時には、AIは使いづらいんじゃないか。 Dreamを出したところで、現実的じゃないと、批判して終わってしまうのでは?

 とか。

 うーん、面白い。個人の学習や組織の変化、あるいはLeadershipやManagementは、その置かれているContextの上に成り立つので、当然背景となる文化を重要なものとしてとらえる必要があるよね。 

 翻って、日本はどうか。 特に最近は、あらゆるところでのバッシングが横行している感じです。
 あれができてない、これもダメ。
 日本人は英語が苦手というStigmaから始まって、学校教育の低下、政治の汚職、行政の怠惰、医療の質の悪化、警察の失態などなど、、 新聞紙面はBlamingばっかりかも。
 そりゃぁ、自信もやる気もなくなっちゃうなぁ。 うつ病も、そりゃぁ増えちゃうよねぇ。
 
 教育指導法でも、「褒める」というところで、とたんに「なかなか、うまくできないもんですなぁ、、」。 
 認める、褒める、高めあう、学びあうって、大事だって分かっちゃいるけど、一度批判的な中に身を置いてしまうと、なかなかシフトするのは難しい。

 それで、「品格」なる、自己鍛錬や自己認識に、振り子が揺れているのかな。

 うー、、ダメ出し、いっぱいしてたなぁ、、、
 ダメ出しされた方、ごめんなさい。
 自分も、反省です。。(でも、そんな自分もOKってとこからの、反省!:) )
 

*参考文献
Peck, E (ed.), (2005). Organisational Development in Healthcare(Radcliffe, Oxford)
Walshe, K and Smith, J (eds.) (2006). Healthcare Management (Open University)
Whitney, D (2005). Appreciative Inquiry: a positive revolution in change
Watkins J and Mohr, B (2001). Appreciative Inquiry (San Francisco)
Lewis, S, Passomre, J and Cantore, S (2008). Appreciative Inquiry for Change Management (London)

13 January 2008

「ネット検索」で緑が増やせる?!

 Essayを書いているんだけど、ついネットサーフィンしてしまう。。

 で、見つけたのが、これ。

 緑のgoo http://eco.goo.ne.jp/search/

 緑のgooから検索すると、検索100回で1本の木(約15円)分を環境保護団体に寄付してくれるんだとか。 しかも、gooの検索は、Google検索と同じ結果が返ってくるらしい。
 
 なんかわからないことがあると、とりあえず「Googleさんに聞いてみよう!」って感じで、おそらく毎日数十回は検索しているから、こんなことで環境にやさしいなら、そりゃぁやりましょう、ってな感じです。

 自分の使っているInternet Explorerにはツールバーがくっつけられるし、私の使っているFirefoxにもプラグインできるらしいので、さっそくプラグインしましたよ。画面右上がGreenで覆われて、目にもやさしい感じです。


 緑のFirefox http://green.goo.ne.jp/info/firefox/main.html

 ブログにも貼り付けられるってことで、とりあえず「緑のgoo」オンパレードです。
 
 Mac Userさん用のものもあるみたいですから、是非検索あれ。
 私はBloggerを使ってますけど、gooのblogを使っている人は、オフィシャルテンプレートがあるそうですよ。

 ネット依存率の高い方、ぜひとも試してみては?

10 January 2008

アフリカのこと

 今のコースのクラスメートに、Nigeriaから来たSisterがいる。 キリスト教のミショナリークリニックを2つも「作って」、さらに勉強のために英国にきたという。
 彼女は、いつも朗らかで、何かいいことがあったりすると、天を仰ぎ、胸の前で十字を切りながら、「Thank you」と言っている。 その姿を見るといつも、私は彼女に十字を切りたくなる。
 彼女は、アフリカの今も強い差別(彼女はStigmaと表現している)のあるHIV/AIDS患者さんたちのために、ずっと働きかけを続けている。 国際組織などからの多額の援助金は、7割は誰かのポケットに消え、患者さんのところに来るのはほんの僅かだと、以前話をしてくれた。
 コレラが流行した時も、何も手立てがなく、目の前で亡くなっていく人を見て、ただ立ちすくむのみだったと、教えてくれた。

 Nigeriaは1960年に英国から独立した、西アフリカの国。だから、英語が公用語。石油資源が豊富だが、その地域では石油会社の社員を狙った誘拐が頻発しているという。
 英国には、たくさんのNigeria人が住んでいる。
 ほとんどは、もう国に帰ることはないという。

 彼女が診療所を「作って」というのは、大げさでも何でもなく、建築資材を運ぶ労働者を雇うと費用がかさむとのことで、ブロックやセメント袋を彼女も背中に抱えて、背中を痛めながら作ったんだそうだ。(あとから、壁が崩れたりして、大変だったと笑いながら話してくれた。)おおざっぱに言うと、500万円くらいで12部屋もある大きなクリニックを作ったんだそうだ。

 彼女は、「英国に来てから、当時痛めた背中が痛むのよ。診てくれる?」ということで、ちょこっと見せてもらうと、その痛みは、おそらく、長時間にわたるPCを使ったEssayの書き込みのために、背筋群と特に肩甲骨周囲の筋肉の疲労。 あぁ、わかるわぁ、痛いよねぇ、、、
 でも、骨が潰れたような形跡はなく、それを説明すると安心した様子。

 彼女からは、PCで困ったことがあると、電話がかかってくる。
 「Powerpointから画像がWordに移せないのよ!」とか、「図形って、どうやってかくの?」とかである。

 Nigeriaにいたときには、素晴らしく良くできた秘書が、PC業務を一手に引き受けてくれていたんだそうだ。(といっても、電力は24時間というわけではないので、往々にして、PCは宝の持ち腐れとなると言っていた。) だもんだから、彼女は、Essayを書くのに、私の何倍もの苦労をして、仕上げている。Wordのタブの使い方やら、図形の描き方、右クリックの項目の使い方、などなど。 

 こんなことでSisterから感謝されるなら、いくらでも手伝うわよっていうことで、結構彼女の部屋にお邪魔している。

 今回は、コーヒーを飲みながら、思い切って彼女に聞いてみることにした。

 「あのね、どうしてアフリカだと、何かの対立となると、いつも民族間での対立にすり変わっちゃってる気がするの。ルワンダも、スーダン(ダルフール)も、ケニアも。 どうしてなの?」

 あー、なんてチャレンジなんだろう、自分。 それってタブーじゃない?

 でも、知りたかった。 「ルワンダの涙(Shooting Dogs)」や「ホテル・ルワンダ」や「Ghosts of Rwanda」を見て、嗚咽が止まらなかった、という経験からも、知りたかった。
 日本で英語の勉強していたときに、クラスメートから教えてもらったダルフール紛争のことも、大きかった。

 彼女は、ゆっくりと、説明してくれた。

 アフリカではね、土地というものが、とても意味を持つものなの。
 
 たとえば、数年前にケニアを訪れた時には、大農場や工場はほとんどケニア人以外の白人やアジア人が所有していた。 ケニア人が作った食材(卵や牛乳)を手に入れようとしても、難しいくらいに、ほとんどの土地は、国外の人のものだったの。
 あるとき、その大地主が土地を売ることになって、ケニア人のお金持ちに売ったわけ。
 そしたら、ほかのケニア人が、「その土地は、自分の祖先が持っていた土地だ」と言って、その土地を自分のものだと主張し始めたのね。 その人は、国外の人が所有しているときには、決してそんなことを持ち掛けなかったのに。
 その土地と祖先からの血の流れというのが結びついて、民族紛争のような形をとるのね。
 土地からよそ者をすべて追い払う、つまり、殺し尽くせば、その土地は自分のものになる、という考え方になってしまうのね。

 今回の暴動は、そんなことがきっかけになった。選挙のことは、後からとってつけたようなもの。ほとんどの亡くなっている人たちは、貧しく、職がなく、教育も受けていないような、もともと怒りをもっていた人たちばかりなの。 だって、日中の10時ごろなんて、職のある人がナタをもって人を襲いに行くなんてこと、できないでしょ?
 本当に戦わなくちゃいけない相手の有力者や、汚職議員たち、外国人に立ち向かうという考え方にはならないの。それに、国内の有力者たちの親族も、財産も、子供達も、みんな国外で安全な場所にいるから、手出しもできない。
 
 そういう、貧しく、職がなく、教育も受けていない、昔からの「目上の人の発言は、それだけでありがたいものである」という慣習から抜けきれない人たちに、ほんの少しの金を見せびらかすことで、紛争をあおる人たちがいるのよ。 そして、貧しいものだけが死に、貧しい者たちの財産が破壊されているだけだから、有力者にとっては、どうということはないのよ。

 日本語で配信されているニュースだけ追っかけていた私には、頭を殴られるような感じがした。これが、情報のバリアなのだ。事実が知らされない、日本語では。
 あー、知らないということの、なんと無責任なこと。
 知らない、ということは、無意識のうちに、「無いもの」としてかたずけられてしまう。
 
 そのあとも、アフリカの開発のこと、世界銀行やIMFからの借金とそのお金による開発が失敗に終わっていること、国外への頭脳流出のこと、、たくさん話をした。

 一致したのは、教育が一番大事だ、ということ。
 そして、アフリカ人自身が、自分たちで立ち上がらないと、いつまでたっても状況は変わらない、ということ。

 どうしたらどうだろう、ああしたらどうだろうと、提案してみたけど、彼女が一言。

 「今度、一緒にNigeriaに来たら、きっと違うアイデアが浮かぶと思うわ。」

 そうかもしれない。もしかしたら、今後もPCのスキルの事だけじゃなくて、何か、彼女が十字を胸で切ってくれるようなことが、できるかもしれない。

 Nigeriaに行くには、Visaを発給してもらわないといけない。
 ビル・ゲイツさんみたいになったらと心配だけど、でも、行ってみようと思う。

 

06 January 2008

30年の開きを縮めたい

 目下、Operations Management に関するEssay と格闘中。
 (ほんとはBlogを書いている場合ではない(汗))
 でもなんだか、とっても胸の中が「たぎっちゃって」るので、書いておこうと思う。

 Essay を1本書くために、何だかんだ言って、3桁の論文を見比べて、40-50本に絞り込んで、30本位をがっちり読み込むことになる。 まだまだものすごい時間がかかってしまう。 

 いっつも、そんなときに「ちっくしょー」っていう気分になる。

 ひとつ: 日本に関して書いてある英文の学術論文が少ない。
 ふたつ: ある項目について研究したり論述されたりしている論文を日本と欧米と比べると、欧米だと30年くらい前から話題に上っている。
 みっつ: フリーで読める日本語の論文が少ない。(というか、Manchester大学が日本の論文のアカウント取得していないからなんだけど。)
 よっつ: 英語だから、どうしても時間がかかってしまう。

 アメリカで家庭医が専門医として教育が始まったのが1970年代。
 家庭医療を勉強し始めた時にも、「30年の開きかぁー(遠い目)」って感じだった。
 Healthcare / Hospital Management に関してもおそらくそれくらいの開きがある。

 ものづくりに関しては、ずば抜けて世界のトップを今でも走り続けている日本なのに、どーして学問や医療では、そうじゃないんだろう。
 本当は、ずば抜けているのかもしれないんだけど、少なくとも世界ではあんまり認識されていない(だって、日本に関する記述が少ないんだもの)。
 もしかしたら、提示の仕方がよわい? 鷹が爪を隠しっぱなし? 

 知識の蓄積・構築・進歩・教育って言うのを考えると、大英博物館の「Enlightment 」っていうコーナーを思い出す。 このコーナー、18世紀の英国人たちが世界をどう解釈していたかって言うのを、大英博物館のコレクションを通じて解説しているものなんだけど、本当にImpressive です。
 コレクションを見ていると、「そりゃぁ、違うでしょ」っていう解釈の仕方もあるんだけれども、なんでそんな解釈になったんだかって言う(現時点で正しいと考えられている)説明もある。
 この部屋に入ると、過去の偉人や学者や、あるいは無名の人々が積み上げてきた「英知」に圧倒される感じがする。
 それに、こういう展示方法をもって人々に知らしめることができる、博物館のスタッフのレベルの高さに、これまた圧倒される。

 もちろんこのコレクションは「英国人による英国人の解釈」なんだろうけれども、それのいくつかは、日本の歴史上のある時期には、発展の礎になってきたわけだし。 

 そんな「英知」の上に、今自分が勉強していることも、医者として患者さんに向かうときの医学的内容も積みあがっているんだと、非常に神妙な気持ちになるし、その上に、ほんの綿毛の一本くらいでも、のせることができたら、どんなにか嬉しいだろうなと、思ったりもする。

 でも、でも、30年の開きは、何とかしたい。と、思う。
 いろんな情報の媒体で、今何が話題になっているのかって言うことは、手に入れることができるし、その気になれば自分で勉強することだって、できる。
 
 Practical なアプローチは、もちろん社会や現場がそれを受け入れる体制がないとできないかもしれないんだけれども、研究はきっとできるような気がする。どうだろう、だめかなぁ。

 Discover は苦手かもしれないけど、Modify やImprovement は日本のお家芸だと思うから、製造業だけじゃなくて、サービスの面でも、きっと世界に提示できるものを見出せるような気がするんだけど。

 ちょっと、夢、見すぎですかね。

 。。。。はい、Essayに戻ります。 

 

05 January 2008

Managing Change - Book Review

 Essayを書かなくちゃいけないのに、うだうだ逃げています。

 で、逃げるついでにBook reviewを。



Managing Change, 4th Edition
by Bernard Burnes
Prentice Hall
ISBN 0-273-68336-5

この本は、Leadership and Service Improvement のレクチャーも担当してくださった、Prof Burnes が書かれた本です。

ジャンルとしては、Organisational behaviour、Organisational Development、Quality Improvementになると思います。

とにかく「Change:変化」に対してどのように対応すればよいのかというのが、ぎっちり書いてあって、是非とも日本語に翻訳をしたいのですが、出版社さえあればいつでも訳したいくらい!
変化に関わる理論、方略、リーダーシップの取り方などが書かれています。

目次だけでもご紹介しましょう。

Part One: The rise and fall of the rational organisation
  1. From trial and error to the science of management
  2. Developments in organisation theory
  3. In search of new paradigms
  4. Critical perspectives on organisation theory
  5. Culture, power, politics and choice


  6. Part Two: Strategy development and change management: past, present and future
  7. Approaches to strategy
  8. Applying strategy
  9. Approaches to change management
  10. Developments in change management
  11. A framework for change

  12. Part Three: Case studies in strategy development and change management

  13. Case studies in strategic change
  14. Case studies in changing internal relationships and attitudes
  15. Case studies in changing external relationships

  16. Part Four: Managing choice

  17. Managing change
  18. Organisational change and managerial choice
  19. Management - roles and responsibilities
 各章の最初には、Learning objectivesが設置され、最後にはTest your learning部分が設けられて、さらに参考になる書籍や論文が書かれています。こちらの教科書は、こうした作りになっていることが多いようですね。 自己学習を支援するためなのかしら。 ですので、一つの分野を突き詰めていくと、どんどん孫引きで読むものが増えていきます。
 3cmくらいある分厚い本なのですが、比較的読みやすいので、興味のある方は、ぜひ。

04 January 2008

元気の素

 別に元気がないわけじゃないんだけど、今年も元気で行ってみよーって思うので、元気のもとについて。

 ひとにはそれぞれ、難しいことに直面した時とか、ヘコんだときとか、何となく物悲しくなったときとかの対処方法があると思う。

 自分にとっての対処方法の種類が多いほうが、何かと心が折れないでいられると思う。
 家族や友達と話をするって言うのがよかったりするんだけど、本格的に落ち込むと、話すことすらできなくなるからね。

 医者をしていると、いろいろと大変な状況で「心が折れてしまった、折れそうになっている」人と、たくさん出会う。残念だけど、誰かの折れた心をまっすぐにしたり、もっとしなやかに折れないようにするのって、本人にしかできない。医者としてできることは、それを放りだしたり、粉々にしないように、本人のそばにいることぐらいしか、できない。
 たくさんの折れた心、折れそうな心を見ていると、自分の心も折れそうになることがある。「あぁ、自分ってなんて不甲斐ない」と、あたかも自分が治してあげられることを前提にして、勝手に落ち込んだりする。
 
 そんなとき「それって、違くないか?」ってツッコミを入れて、まぁ、とりあえず動きますか?っていう風に、元気になるための対処方法が、それなりにあることに気が付いた。
 
 たとえば、とりあえず走ってみるとか。
 (たぶん、この、とりあえず、が、いいのかも)

 2006年に、なんだか勢いでホノルルマラソンを走ってから、走ることって結構面白いと思うようになった。
 「マラソンって、人生みたいですよ」なんてよく聞いていたが、「何をおおげさな。。」と思っていた。 でも走ってみたら、びっくり。本当です、人生みたいなものでした。

 走り始める前は、走りきれるかどうかっていう不安と、でも逃げ出すのももったいないしという気分で変なハイな気分だったけど、70代くらいの大ベテランのランナーから

 「心配ないですよ。 たった一歩でも、前に進んだら、それはゴールに一歩近づいたってことなんですから。 歩いてもいいし、走ってもいいし。 でも、忘れないでくださいね、ちゃんと進んでるんですよ。」

 深い。 なんて含蓄のある言葉なんだろう。

 それを、たまたま乗り合わせたエレベーターの中で、ビビッた顔をした若造に言ってくれるこのおじいちゃんは、どんな人生を生きてきた人なんだろうと、思ったりもした。

 走るとき、いつもこのおじいちゃんを思い出す。
 それから、マラソン中のことを思い出す。

 苦しくなった30km辺りから、これまで出会った、そして亡くなっていった患者さんたちが、バーっと頭の中に浮かんできた。昔の友達や、自分の家族や、苦しかったこととかが、走馬灯のように浮かんできた。 そして、こうして、ホノルルで走れるという状況にあることに、無性に感謝したい気分になってきて、その感謝の気持ちが走るエネルギーになって、ゴールにたどり着いたという感じ。 ゴールについた時には、なんだか本当に満たされていた。

 走ると、そんなことを思い出して、目の前の大変なことが、あんまりそうでもないような気がしてくる。

 それから、自分のテーマソングみたいな、元気を出したいときに聞く曲がある。

 NHKのプロフェッショナル仕事の流儀という番組があって、その主題歌 Progressが、たまらなく元気を出してくれる。

 歌詞の一部をご紹介。
 作詞・作曲: スガ シカオ 編曲: 武部聡志・小倉博和 プロデュース:武部聡志

ねぇ ぼくらがユメ見たのって
誰かと同じ色の未来じゃない
誰も知らない世界へ向かっていく勇気を
“ミライ”っていうらしい

世界中にあふれてるため息と
君とぼくの甘酸っぱい挫折に捧ぐ・・・
“あと一歩だけ、前に 進もう”

 この番組、あらゆる職業の「プロ」と呼ばれる人たちを特集しているのだが、その各々の「プロフェッショナルの定義」なるものが、本当に深い。
 これを読むと、これまた元気が出る。

 ちょっと時間のあるときには、好きな映画を見る。

 これまでおそらく60回は見たであろう(つまり、それだけの回数、落ち込んでいたということなんだろうが)映画は、The Matrix(1999)。 何がそんなに響くのか、それはまたの機会に書くとして、とにかく「生まれ変わる、目覚める」というテーマが、いいのかもしれない。
 
 それから、Erin Brockovich(2000)。それっておかしいんじゃないかっていう思いと、何とかしなくてはという情熱で、最大規模の企業を相手に訴訟を起こして勝訴した映画。 事実と違うという批判もあるようだけど、With Passion, anything is possible!! な感じで、元気が出る。

 あとは、思わず「ニヤリ」としてしまうものを紹介。

 げんれい工房さんのHPから。

 (HPに画像転載が禁止とのことでしたので、画像は削除しました。でもね、にやりとできるから、みてみて↑)

 挫折禁止(R)
 
 禁止って言われても、ねぇ。。
 
 これを見て、ふふふって思える間は、まだ大丈夫、大丈夫。

02 January 2008

謹賀新年

明けましておめでとうございます。
今年も、どうぞよろしくお願いいたします。

いつも世界中で最初に「明けましておめでとう」な国から、花火を打ち上げながら「A Happy New Year!」な国にきて、新年を迎えました。

まだ大晦日のうちから、日本からの「明けましておめでとう!」のメールが届き、なんだか不思議。そうよね、9時間も違うんですもんね。

元旦には、同じフラットの日本人の友人たちと料理をしました!
初めてお雑煮を作ってみましたよ!

ゴボウや里芋がなかったので、とってもシンプルなお雑煮になりましたけど、オーブンで焼いたお餅も入れて、Japaneseなお正月になりました。梅の形に人参と大根をカットしてみました。ゆずがあったら、もっと素敵な色合いになったのになー。残念。
うーん、ほんとは日本酒もほしいところでした。
友達は、煮しめを作ってくれて、とってもおいしかったです!


中国の友達から「Did you watch the event 'Red and White'?」って聞かれて、なんだそりゃ?って思ったら、どうやら紅白歌合戦のことでした。 なるほど、Red & Whiteですね。
一緒に祝った中国と台湾の友人たちにとって、1月1日はそんなに大きなイベントじゃないので、中国と台湾の暦の正月には、またごちそうを作ってお祝いします!