23 January 2008

62年間のCohort Study

 Researchの世界には、とんでもないものがあるんだということを、知りました。

 今日は、University of Londonの一つである、UCL(University College London)のDepartment of Epidemiology and Public Healthが主催していた説明会に参加してきました。

 UCLはResearchでトップクラスと評価されているところで、このDepartmentのHeadであるProfessor Sir Michael Marmotは、Social Epidemiologyの第一人者です。 Social Epidemiologyというのは、社会的な要因(貧困、教育レベル、人種、社会的地位など)が健康にどのように影響するかについて研究している学問です。
 
 私が初期研修を受けた病院は、労働者階級の人たちも多く、比較的貧困世帯の多いところで、診療を受けに来る患者さんの約3割が生活保護世帯という、結構特殊な病院でした。 アルコール依存症と急性膵炎、C型肝炎、うつ病、思春期の妊娠と中絶、糖尿病、末期になってからの悪性腫瘍の発見などは、かなり多い印象を受けていました。 また、高度経済成長期からの公害による気管支喘息、肺気腫も何しろ多かった。 酸素ボンベを引っ張って受診して来る患者さんの、なんと多かったことか。

 そんな中で医者としての第一歩を踏み出して、違う病院でトレーニングを受けるようになって、驚いたのが、地域による病気の頻度の違い。 これほどまでに違うものかと、愕然としたのを覚えています。 社会的要因というのは、こんなにも健康に影響するものなのかと、実体験として感じていました。

 そんなこんなで、Public Healthの中でも、Social Epidemiologyに特に興味があったので、本場ではどんなもんかと、「気軽な気持ちで」説明会に参加してきたのでした。

 またまた、頭を「がちーん」とやられた感じ Oh! (*o*)""

 Departmentで現在進行中のResearchについて、実際にHeadとなっている教授陣たちのプレゼンを聞いたり、Ph.D. コースの学生さんたちのPoster Presentationを聞いていて、いやはや、なんとまぁレベルの高いこと!! それこそNEJMやLancetなんかの論文を書いているような人たちというのは、こういう人たちなんですね。。 

 その中で、とにかく一番驚いたのは、1946年(!!)から行われているCohort studyについて。
 62年間ですよ。 62年。
 1946年っつったら、日本はまだ焼け野原状態。 
 そんな中で、英国ではなんとも壮大なResearchがスタートしていたのでした。

 Medical Research Council (MRC)がメインとなって行われている、
 MRC Unit for Lifelong Health and Ageing & MRC National Survey of Health and Development
 というStudyです。
 http://www.nshd.mrc.ac.uk/

 2005年に論文で発表されています。

 Wadsworth, M., Kuh, D., Richards, M. and Hardy, R.(2005). 'Cohort Profile: The 1946 National Birth Cohort (MRC National Survey of Health and Development)'.International Journal of Epidemiology, 35(1):49-54
 http://ije.oxfordjournals.org/cgi/content/full/35/1/49

 1946年に生まれた人たちを、その後、ずーっと追っかけているのです。
 いやー、信じられない!

 なんだか、もう、そういうResearchがあるっていうことを知っただけで、めまいがしたというか、鳥肌が立って、体の奥からグアァーっと「知りたいー!!!」っていう気分。 (いやはや、日本語のボキャブラリーもいまいちですね。。)

 この膨大なデータをあらゆる角度から分析したものが、これからもたくさん論文になると言っていました。

 このほかに、もうひとつ、これまた大規模研究であるWhitehall II studyというのも、このDepartmentで行われています。
 http://www.ucl.ac.uk/whitehallII/

 今日の説明会の最後は、このStudyで実際にデータを集めるClinicを訪問し、Participants のデータを誰がどんな手順で集めているのかというのを、実際に見せてもらいました。
 トレーニングを受けた看護師や技術者の人たちが、プロトコールにのっとってデータを集めていき、なぜそのデータが必要なのか、そのデータの持つ意味について、話を聞きました。

 目の前にある、一つ一つのデータ(たとえば心電図データとか、握力の測定値とか)と、それが分析されて出されている結果を両方同時に見ることができて、本当に言葉にできないくらい圧倒されました。
 
 最後に、Professor Sir Michael Marmotがおっしゃっていた言葉が、とても力強くて、印象に残りました。 曰く、

 「私が医者になったとき、ある先輩からこう言われたのだ。 『医学書を読んだからと言って、いったい病気の何がわかるというのだ? ’なぜその病気が起こるのか’ について、僕たち医者は何もわかっちゃいないじゃないか。』 そう言われて、私は愕然とした。 そして、それを明らかにしたいと思ったのだ。」

 「私たちの使命は、真実とは何かという絶えることのない好奇心で、質の高い研究を行うことだ。 そして、その研究を通じて、英国の医療政策(Health policy)と、世界の医療政策に対してEvidenceを提供することだ。」

 もう、本当に、今日は(今日も)、感動と驚きと幸せな気分で、胸がいっぱいです。
 

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