09 December 2007

継続は力なり

 日本に帰ってきて、数カ月ぶりに「医者」をしています。

 そこで気がついたこと。 

 昔の人は、本当によくいったものです。「継続は力なり」 です。

 まず、仕事のブランクが空くと、自分でもあきれてしまうほど、いろんなことを忘れていることに気が付きます。 

 たとえば薬の名前。

 薬効とか、形状とか、1日何回投与するとか、副作用とかは覚えているのに、肝心の「薬の名称」が出てこない。 名前が出てこなければ、処方箋に記入できないから困ってしまうわけです。

 それに加えて、思考のスピードが落ちていることにも気が付きます。
 脳のしばらく使っていなかったシナプスを活性化させるのに、時間がかかっている感じ。

 患者さんを前にして、お話を聞いて診察をさせてもらって、検査などを出したり点滴なんかをしたりするわけですが、その際に頭の中でどんなことが起きているかというと、可能性のあるいろんな病気のリストを、お話の内容や診察、検査の結果で絞り込んでいくわけですね。 
 で、毎日毎日たくさんの患者さんを見ていると、そうした思考がものすごいスピードで処理されていくわけなんですが、ブランクが空くと、(自分でも「前とは違う」という感覚があるので、間違っちゃいけないと思うから)一つ一つ時間をかけて検証していかないといけないわけです。 まるで、研修を始めた当初のように、じれったくなるほど時間がかかる。 でも、だからと言ってハショるわけにもいかないから、ひとつづつクリアしていくしかないわけですね。
 もちろん、研修開始当初に比べれば、元の思考スピードまでに回復するまでにそんなに時間はかからないわけですが、それでも患者さんを待たせてしまうのに、気が引けるわけです。(ここいら辺の感覚は、きっと英国人にはわかるまい。。)

 逆に、数カ月単位の時間的ブランクがあまり影響しないことがあることにも気が付きました。

 それは、技術的なこと。
 たとえば、細い血管に点滴の針を刺すことや、おなかの診察をすること、聴診時の音を聞き分けることなど、体が覚えているんですね。 これは、びっくりしました。
 どちらかといえば、体が先になまってしまうと思っていたのに、先になまってしまうのは、脳味噌のほうでした。 新しい知識は、論文やインターネットで常に追っかけてUpDateできますけど、その知識を実際に使ってみて初めて、自分の思考回路の中に取り入れて「使える知識」になるんだなぁと、思うわけです。

 気がついたことには、いいこともありました。
 何よりも嬉しかったのは、やっぱり自分はこの仕事が好きだということに気がついたこと。

 英国に来るまで続けていた医者という仕事の中で、「こっちのほうが病気になっちゃうよ!」ってくらい苦しいことやつらいことなんかもたくさんあったんだけれども、人間とはうまくできたもので、「ありがとう」という言葉をもらえた事や、やり遂げた達成感なんかのほうがしっかりと刻まれているんですよね。 
 それなりに継続して仕事をしてきたから、そのプラスの蓄積があって、そのおかげで仕事ができて幸せだなって思えるんだなぁって、気が付きました。 ありがたいことです。

 短期間のブランクで、思考のスピードや知識は低下してしまっても、身体的・精神的感覚というのは長期間の継続が裏付けとしてあると、短期間のブランクではあまり低下せずにそれなりに維持できるものなんだなぁと。 あるいは、ただ単に、長期記憶という形にまで持っていけなかった知識が、ぽろぽろ落っこちちゃってるだけかもしれませんが、、
 
 縁あって英国で学んでいるわけですが、その間も、色んなことに興味を持って、細々とでも情報を仕入れて、できることなら実践に移してみて、そんなことをこれからも続けてみようと思いました。 
 続けて行ったら、きっと、脳味噌のいろんなシナプスが常にあっちこっちにつながって活性化し続けて、それなりの思考スピードを維持しながら、もっとプラスのフィードバックを自分に与えることができるかなぁなんて、思います。 あぁ、ただ、一つのことを極めるって言うのは、ちょっと難しそうですが、、、

No comments: