http://internationalforum.bmj.com/
もともとは、ヨーロッパとアジアで分けて開催されていたそうです。
BMJのMLでお知らせがきて、大学院の課題が目白押しだというのに、その魅力的な内容と大学のLecturerのお勧めもあって、急遽参加することにしました。
1日目は、Better quality through better measurement というコースに参加し、
2日目は、Cutting Edge research for improvement in health care、Lean thinkingという2つに参加しました。
まだ明日もありますが、コースでの学びは順次記載していこうと思います。
ともあれ、今日のコースであまりにも感動的なことがあったので、薄れないうちに書いておこうと思います。
午後からのコース Lean Thinking では、Sweden, Canada, UK (Bolton-NHS England, Liverpool-NHS England, Wales-NHS Wales)の5つの地域での、実際にLean Thinkingを医療の現場にあてはめて成功した事例が紹介されました。
Lean Thinkingとは、「作業の流れ(Flow)の中で無駄を省いて質を最高まで高める」という質改善の考え方。Toyota方式に代表される、もともとは製造業で発達してきた質改善の考え方・手法です。Leanとは、ぜい肉をそぎ落とすという意味。1980年代に、米国のResearcherがToyotaを代表する製造業を研究したあと、1990年代に米国で広まり、その後日本に戻ってきたという、逆輸入された(行って、戻ってきた)考え方です。
この考え方を、医療の質改善にも取り入れようということで、英国でも数年前から NHS Institute for Innovation and Improvementという機関が旗振り役となって、積極的に取り入れられるようになってきました。
www.institute.nhs.uk/ServiceTransformation/Lean+Thinking
5つのケースでは、患者さんの待ち時間の短縮、日帰り手術のフローの改善など、目を見張るほどの改善がありましたと報告されました。
どれも素晴らしい「Kaizen:改善」には違いないのですが、どれを聞いていても、
っていうか、大規模なProjectにするまえに、誰かが工夫とかしなかったのかなぁ
という疑問がわいてきました。
たとえば、
- 日帰り手術では、1日平均16件の手術を行う時に、朝一番にすべての患者さんが病院に到着し、数時間待ってから手術に入る
- 流し台の周囲に水あかがこびりついて、感染の温床となっている
- 予備の物品置き場が乱雑で、物がどこにあるか分からない
- 病棟の器具(車いす、点滴台、輸液ポンプなど)が一か所にまとめておかれて、ごちゃごちゃ
次の人が使いやすいようにちょっと気を配る、っていうことはしないのか?っていう疑問。
汚い状態を誰かが片付けるとかしないのか?っていう疑問。
日本の医療機関だと、看護婦さんたちが日常業務の中で、どんどん工夫していっていると思うんですけど、いかがでしょうか?
たとえば、包交車(病室でのケアの際にガーゼや注射器、薬などをまとめて移動できるようにセットされた作業台)の脇などに手製のマルチポケットがくっつけられていたりとか、在庫置き場には戸棚ごとにラベリングされていたりとか、なんていいますか、日常的に少しずつ改善していっているように思います。
もちろん、5つの事例では、こうしたプロジェクトを行ったことで、
- チームワークの向上、
- 医療者が質改善に対して積極的になる、
- 改善することで職員と患者さんの満足度が上がる、
- フローが改善して回転が速くなることで時間外労働短縮、
- 収益の増加にもつながる
ただ、こうした質改善の試みを持続的なもの(Sustainable)としたり、プロジェクト以外の部分への質改善の広がりという観点からみると、プロジェクトに注目した質改善だけではなくて、Lean Thinkingのコアの考え方(というか、哲学?)の一つである 5-S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)を組織の文化(Organisational Culture)としていくことが大事なんじゃないかなぁと思ったわけです。
「整理・整頓」なんて、小学校の時に黒板の上にでかでかとクラスの目標みたいにして掲げられてたよなぁ。
そうそう、本当に小さなときから、この5つって、礼節・作法の一つとして教え込まれてきたように思います。
物や行為がきちんと流れて、それが「美しいかどうか」というのが5Sの根底に流れているように感じます。
竜安寺の石庭や茶室に代表されるような日本の美しさと、製造業の質改善と、一見つながらないように見えるのですが、思うに、職人さんたちの仕事に対するこだわり方や和食の下ごしらえの方法や盛り付け、お母さん達の掃除の仕方なんかにも、「美しさ」っていうのが、根底に流れているような気がしています。
で、セッションの最後に、感想として「Lean Thinkingを、MethodsとかStragetiesとかっていう見方だけではなくて、5Sに代表される個人の態度にまで注目して、組織分化の変化というレベルまで持っていくことが、継続的な質改善(Continuous Quality Improvement)へつながる重要なポイントじゃないかと、日本人として思うんですけど、いかがでしょうか?」って聞いてみました。
プレゼンターからも、その組織分化の変化の重要性はかなりはっきりしてきているというコメントをいただいて、さらには、座長から、「Lean Thinkingでは、Elegantかどうか、ということがとても大切だ」とまとめていただきました。
この、Elegantかどうか、っていうこと。
NHSなどでLean Thinkingの導入に際して失敗した原因を分析している論文で、Elegantなんていう言葉は、まず見つからない。 大抵は、システムの構造が違っていたとか、Top managementが気を配っていなかったとか。 Elegantかどうか、っていうのをどう評価するんだっていう問題があるので、はっきりさせることができないというのも、一つの理由だと思います。
でも、このElegantかどうか、つまり、美しく洗練されているかどうか、っていうのがLeanの要だと思ってきたので、座長からこの言葉を聞いたときは、「それです!通じてる!」って思って、鳥肌がたつほど感動しました。
セッション終了後、座長に駆け寄って話をしていたところ、さまざまな国の方々とLean Thinkingに流れているものの見方について意見交換をすることができました。
質改善の論文を読んでいた段階では、日本の美しさっていうものは、「言っても分かんないだろうなぁ、伝わらないだろうなぁ」って思っていたのですが、長年にわたって医療の質改善に取り組まれてきた各国の先駆者の方々は、表現の違いこそあれ、日本の美しさへの理解がとても深い方ばかりでした。
これは、かなりの驚きでした。
チェコ、スウェーデン、UK、USAの方々と、「英語」で話をしているのでなかなかしっくり表現できないもどかしさはありましたが、それでも、とても大きな収穫でした。
じゃぁ、次の疑問として、「Japanisation:日本化」しないとLean thinkingは継続できないのか?
そうだとすると、軽く2世代分の時間はかかるでしょう。
どの国の文化にも、無駄を省くことや、時間を大切にすること、美しさについてなどの格言があるように、日本の文化と共有できる部分があると思います。 そこを足掛かりに、その文化やContextにあったLean Thinkingの導入の仕方があるんじゃないだろうか、そんな風に思います。